特許庁審判官、審査官、東京都立大学(首都大学東京)法科大学院教授などを経て、現在、トムソンブランディ顧問も務める弁理士・工藤莞司先生が、商標界で最近話題のトピックを鋭い視点から読み解きます。
第7回 「甲州」ワインの品種登録と知的財産
-原産地表示・原産地名称の保護-
先日、「甲州」が葡萄・ワイン国際機構(OIV、本部パリ
http://www.oiv.int/japonais.ppt#278,1,参照)に品種登録が認められたと報じられた(2010.7.27読売)。わが国産ワインとしては最初のことという。
ワインについて、「甲州」は産地表示であり、国際的には、「原産地表示」、「原産地名称」として、工業所有権の保護に関するパリ条約で保護の対象とされている。
知的財産の一種であり、1世紀以上の歴史を有するものである。
商品の産地表示は、単なる生産地の表示を超えて、当該産品の地理的起源や品質までを表示して、特に、名声や評判を獲得した場合は、農産品等については生産者とって当該地域全体の財産となる。
しかし、商品の産地表示・原産地名称を積極的に保護し、他国にも拡大して保護を求める欧州各国と、産地や品質について誤認がある場合のみ保護するアメリカ、カナダ、オーストラリアとの対立の歴史がある。
前者が創設した「虚偽の又は誤認を生じさせる原産地表示の防止に関するマドリッド協定」(1891年成立)や「原産地名称の保護及び国際登録に関するリスボン条約」(1958年成立)があるが、アメリカ等はいずれにも加入していない。わが国は前者にのみ加入している。
わが国の国内法では、原産地・原産地名称を登録するなど積極的に保護する法制はなく、やはり産地や品質の誤認から保護するものだけである(不正競争防止法、景表法)。最近でも、「牛肉」や「うなぎ」などの産地偽装問題で、不正競争防止法が盛んに活用されて、刑事事件にまで発展していることは良く目にしていることである。
こうした中で、1994年に成立したTRIPS協定では、ECの主張が通り、「ワイン」「スピリッツ」の産地表示である「地理的表示」については、誤認がなくとも、WTO加盟国において保護されているものは、商標としては登録しないことが合意された。
わが国では、商標法に新たな不登録事由として追加された(商標法4条1項17号)。
ところが、わが国国内では、積極的に保護している酒類の産地等はなく、他国のためにのみの保護規定にならざるを得ない状況を避けるため、急遽、スピリッツに相当する焼酎・泡盛の産地として、「壱岐」、「球磨」、「琉球」について「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」(通称「酒団法」)の下で保護規定が設けられて、特許庁長官が不登録事由として指定した経緯がある(その後、「薩摩」が追加されている。)。
今度の「甲州」ワインの品種登録は、わが国での原産地・原産地名称の保護に対する新たな動きであり、またその積極的な保護に一石を投じるもので、注目されよう。