特許庁審判官、審査官、東京都立大学(首都大学東京)法科大学院教授などを経て、現在、トムソンブランディ顧問も務める弁理士・工藤莞司先生が、商標界で最近話題のトピックを鋭い視点から読み解きます。
第6回 地域団体商標の登録のポイント
=「とやま牛」審決から=
地域団体商標は、新設されて以来、4年が経過し現在まで、948件登録出願されて、457件登録査定されている。意外に登録率が低いのが気になる。
地域団体商標の性質上から登録対象商標や指定商品・役務、出願人適格が制限され、また登録要件については、商標法3条1項3号の産地、販売地等が適用されない代わりに、「需要者の間に広く認識されている商標」として、一定の周知性が要求される。
この点、最近出された「とやま牛」審決(平成22年6月15日 不服2008-5960)が好例である。
審査官は、「本願商標は、その指定商品『富山県産の牛肉』に使用をされた結果、出願人又はその構成員の業務に係る商品を表示するものとして富山県及びその隣接都道府県に及ぶ程度の需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。」として拒絶査定した事案の審判事件である。
争点は、「本願商標が使用をされた結果、自己又はその構成員の業務に係る商品を表示するものとして、富山県及びその隣接県に及ぶ程度の需要者の間に広く認識されているか否か」である。
周知性とは、商標の当該需要者・取引者への認知度乃至は浸透度で、主に地域的な範囲とされ、当該商標の使用期間、使用地域、生産・販売数量、営業の規模、広告宣伝方法・回数等に基づき、出願人提出の宣伝広告物や取引書類、関係者の証明書、マスコミの紹介記事等により証明され、個別に認定される。
最近では需要者へのアンケート調査も採用される。
前掲「とやま牛」審決でも、審判官は、指定商品「富山県産の牛肉」に係る商標「とやま牛」の使用事実について、請求人(出願人)提出の証拠により、「使用期間」については、遅くともテレビCMを開始した平成17年7月から現在(審決時)も継続、「使用地域」については、枝肉が富山県、新潟県、石川県、長野県、福島県、群馬県、山形県、栃木県、愛知県及び茨城県、また、「とやま牛」使用商品が富山県、石川県及び福井県、「広告宣伝の方法、内容」などについては、(ア)ポスター及びのぼり、(イ)新聞(一般紙など)、(ウ)テレビCMの各事実を認定し、これらに地方公共団体等の支援的な使用を含め、また、統計として、平成16年度から18年度までの富山県内肉牛生産量の請求人等取扱量は概ね85%であることを認定している。
以上のように、使用事実を丁寧に認定した上で、審決は、『これらの事情を総合考慮すれば、「とやま牛」の文字からなる本願商標は、指定商品について使用をされた結果、請求人等の業務に係る商品を表示するものとして富山県及びその隣接県に及ぶ程度の需要者の間に広く認識されているものというべきである。』と周知性の獲得を認めて、拒絶査定を取り消し登録すべきとした。
「とやま牛」商標では、審判段階での使用事実を証明する証拠の提出が登録へと導いたもので、最終処分前までは、補充できる。
出願後でも強力な宣伝広告をして、売上げが急増した場合なども、周知性を獲得することはある。
現時点で、地域団体商標の出願件数の半数が登録に至っていない。
どうも周知性の獲得について証拠資料が不足と推測される。この点「とやま牛」審決は参考となろう。