特許庁審判官、審査官、東京都立大学(首都大学東京)法科大学院教授などを経て、現在、トムソンブランディ顧問も務める弁理士・工藤莞司先生が、商標界で最近話題のトピックを鋭い視点から読み解きます。
第4回 「地名」は商標として登録されるか
先日の新聞報道によれば、エチオピア国の地名「SIDAMO」(シダモ)が「コーヒー、コーヒー豆」の商標として登録性を有するか否かが争われて、知財高裁は、「エチオピア産コーヒー、コーヒー豆」については、登録性を有すると判断し、登録性がなく登録無効とした特許庁の判断を覆した(2010.3.29判決)。
特許庁は、「SIDAMO」(シダモ)が「コーヒー、コーヒー豆」の産地又は品質表示で識別力がなく、また一人の者に独占させる適格はないとしたのに対して、知財高裁は、わが国のコーヒー、コーヒー豆の需要者、取引者の間では、地名としては知られておらず、むしろコーヒーのブランドとして認識されているのであるから識別力があり、また商標権者はエチオピア国自体であって、独占させても問題はないとしたものである。
地名と商標については、古くから問題が提起されているが、商標法上、地名が、登録する場合に指定する商品の産地や販売地表示であるときは識別力はないものとして、商標登録はできないとされている(商標法3条1項3号)。
産地や販売地表示であるか否かは、指定商品の需要者、取引者の認識を基準として判断される。
例えば、新潟県にある「燕」は洋食器の産地として知られているから、指定商品「フォーク、スプーン」であれば産地表示と認識され識別力がなく登録されないが、指定商品「菓子」については、むしろ鳥の名であって産地表示とは認識されないだろう。
このような判断基準は他国でも同じと思われ、隣国でも、「青森」、「鹿児島」、「宮城」等が登録されてわが国で問題視されているが、同国の指定商品の需要者、取引者の認識をもって判断されるのであるから、先ずは地名としての認知の有無、更には産地表示としての認識であり、直ちにわが国と同様の判断に至るかについては、困難と思われる。
要するに、地名イコール登録性なしではない。指定商品の産地や販売地表示ではない地名は登録される。
現に、わが国でも、「冨士」、「コロンビア」、「霧ヶ峰」、「ジョージア」等は登録商標であって、しかも周知・著名性を得ている。
なお、特許庁が判断理由の一つに挙げた独占適応性については、判断基準が今一不明で知財高裁では国が商標権者であることをもって否定されている。この種の判断においては識別力の有無が基本と言える。
このような意味で、知財高裁の判断は、わが国における「コーヒー、コーヒー豆」の需要者、取引者の認識を基準としたときは産地表示ではなく識別力ありとした点においては是認できるとしても、「シダモ地方産」以外の「コーヒー、コーヒー豆」については品質の誤認の虞があるとした一方で、特許庁が判断した「品質表示」であって識別力なしとした点については応えていないという問題が残ったと思われる。