thomsonbrandy.jp 2.0.7(2008-10-18) トムソンブランディ事業部

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工藤莞司先生の「商標、ここが肝心!」

特許庁審判官、審査官、東京都立大学(首都大学東京)法科大学院教授などを経て、現在、トムソンブランディ顧問も務める弁理士・工藤莞司先生が、商標界で最近話題のトピックを鋭い視点から読み解きます。

第3回 「商標」の意味を考える

=ポスター記載の『守りたい「ひと」がいる』は商標か=

先日、県警作成の採用試験告知用ポスターに記載した『守りたい「ひと」がいる』について商標権侵害の問題が報道された(2010.3.18付け朝日新聞夕刊)。
県警側は他人の商標権侵害の虞があるとしてポスターを回収したという。

改めて、商標とは何か、という基本的でシンプルな問題がクローズアップされたと思う。商標法を学んだ者であれば、「商標」とは、業として商品・役務に使用するマークで、識別機能を有するものと異口同音に答えることになる。商品・役務の識別機能や出所表示機能が商標の本質であると添えるだろう。

県警が、その採用試験用ポスターに使用する『守りたい「ひと」がいる』は、このような商標の概念に該当するだろうか。他の同種役務(例えば、各県警等に係る業務)より、識別する役割を果たしているだろうか。否という答が予想出来る。新聞報道でも、「キャッチコピー」という捉え方をしているのも、この点を裏付けていると思われる。

しかし、世間一般では、文字や記号、図形等は全て商標と理解されている可能性があり、本事件もそこから発していると思われる。この問題の発端を、識別機能等に言及のない商標法の定義規定にあるとの意見もあるが、主として専門家向けの定義規定だけでは解決されないだろう。

また、『守りたい人がいる』の登録商標、他人の商標権(登録第4489386号)の内容をも見なければならない。
商標の機能上、商標登録を受けるには、商標とともに、使用する商品・役務を指定して登録を受けることになる。
登録商標『守りたい人がいる』の役務には、35類「広告」が指定されているが、これは、「他人から依頼を受けてその他人の商品や役務等についての広告を扱う広告代理店が提供する役務」のことで、自己の商品・役務の広告ではない。自己の商品・役務自体の広告に使用する商標はその商品(薬剤、テレビ、菓子)等についての商標の使用である。県警作成のポスターも広告役務の提供ではなくて、警察業務の一環のものであることは疑いない。この点でも、本事件にはズレがあるように思われる。

では何故『守りたい「ひと」がいる』のようなフレーズが商標登録になるのか、ということも問われかねないだろう。
審査基準では、標語(キャッチフレーズ等)は原則として識別機能がなく登録しない旨を定めているが、その中でも、多くのフレーズが登録されている。グレイゾーン的なものもあるが、少なくとも商標としての使用、すなわち指定商品・役務の識別機能を発揮する形での使用を前提として登録しているもので、商標権者の使用でも、本件のような使用例では、商標としての使用ではないので商標法の埒外ということだろう。