thomsonbrandy.jp 2.0.7(2008-10-18) トムソンブランディ事業部

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工藤莞司先生の「商標、ここが肝心!」

特許庁審判官、審査官、東京都立大学(首都大学東京)法科大学院教授などを経て、現在、トムソンブランディ顧問も務める弁理士・工藤莞司先生が、商標界で最近話題のトピックを鋭い視点から読み解きます。

第1回 節分用巻き寿司に使用する「招福巻」は一般的名称か

=大阪地裁と同高裁とで正反対の判断=

この度大阪高裁は、節分用巻き寿司に使用する「招福巻」は、その一般的な名称(巻き寿司の普通名称)であって、登録商標「招福巻」に係る商標権を侵害するものではないとの判決を下しました(大阪高裁22.1.22判決)。
原審の大阪地裁では、商標権の侵害と認めて被告に使用の禁止と損害賠償を認めました(大阪地裁20.10.2判決)が、これを取り消したものです。
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判断逆転のポイント
大阪地裁では、「招福巻」は業界では多数の使用例はあるが未だ巻き寿司の普通名称には至ってはいない判断としたもので、「恵方巻」がその普通名称であって、「招福(巻)」は広辞苑には登載されていないことに加えて、商標権者(原告)が使用者に対し警告して商標権を擁護していることを理由としたものでした。

これに対して、大阪高裁では、大阪から始まった節分に巻き寿司を食べる風習は近年では広範囲に広がりつつある中で、「招福巻」は、需要者には節分用等で使用される巻き寿司を意味するものと容易に理解される商品名ということができ、そして、現に業界ではそのような多くの使用例があることから、平成16年前後より巻き寿司の一態様を示す一般名称・普通名称化したと判断しました。

大阪地裁では登録商標の存在を重視したのに対して、大阪高裁では使用商品「節分用巻き寿司」と「招福巻」から生ずる意味や業界の使用例に重点を置いたため、結論に違いが出たものと思われます。後者の判決では、商標「招福巻」の登録は昭和63年であるが、その後の業界の多くの使用例から普通名称化したと認定したもので、あるスーパーのちらしには原告の登録商標と並んで、「・・・招福巻」「×××招福巻」と並記されていることが特掲されています。

侵害訴訟では、被告側が、商品の普通名称としての使用であれば商標権の効力は及ばないとの抗弁ができ、この判断時期は侵害訴訟の口頭弁論終結時でありますから、登録商標であってもその時点で普通名称化したときは侵害にはならないことになります。本事件では、大阪高裁段階でこの抗弁が採用されたものです。

日常用語商標の管理の難しさ
大阪地裁では、商標権者・原告が使用者に対して警告して普通名称化を防ぐ努力した点も評価されましたが平成19年からであり、業界での使用開始は同16年頃からであり遅すぎたことは否めません。

また、「招福巻」がいわゆる造語商標ではなくて、しかも「招福」が目出度いことを表す用語として日常的に使用されるものであることも影響しています。節分のような目出度い行事や席に出される商品の説明的な表示としては採択されがちな性格を有する語で、しかも本来的にも出所表示機能が強いものとは言えません。それで、商標としては造語を採択すべきとする所以でもあります。

商標権侵害訴訟では、被告の使用が登録商標の有する出所表示機能を害するか否か、いわゆる商標的使用の要否で判断する解釈が定着している現在では、これと同趣旨と思われる大阪高裁の判断は肯定されましょう。